不二子 (女優) 映画『赤い玉、』について【2/6】
2015年9月12日(土)よりテアトル新宿他にて全国ロードショー
公式サイト 公式twitter (取材:深谷直子)
――今回はお話をいただいたわけですから逆転ですね(笑)。しかもとても印象的な役で。唯は普通の女性ではあるんですが、過去を語らないのでミステリアスですよね。年齢が35歳ということと、京都に流れてきて大学の事務の仕事をしているということしか背景が明かされなくて、でもこれだけのできた女性であるというのはどんな人生を送ってきた人なんだろう?とすごく気になるのですが、脚本にはない唯のバックボーンなどは監督から説明があったりしたのですか?
不二子 監督とはそういう話はしていなくて、自分の中で考えていましたね。唯は若いころ女優を志していたりしたことがあって、だから時田の作品ももちろん観ていたんですが、でも時田と知り合ってもそういう話はしないんですよ。
――そこは男女の駆け引きで、対等に向き合いたいと。
不二子 そう。ただ、時田の作品は実は大好きであったというふうに、自分では設定していました。
――なるほど。脚本を書き始めた時田を唯がとても喜んで応援するのは、唯も映画を愛しているからですよね。唯と時田の関係はとても穏やかで、まるで老夫婦のような落ち着きを感じるのですが、やはり緊張感もありますね。
不二子 多分出会った最初のころは、時田が唯のことを仕込んで、それで唯があそこまでの女性になったと思うんですよ。そういう時期が1年ぐらいはあって、それを経て本当に落ち着いた老夫婦のようになって。それに対して唯のほうでは「こういう関係は彼にとっていいのかしら?」と思うところがあって、それで最後ああいう行動に出るのかなあと思います。
――割とお互いに残酷なことをしてしまっていますよね。時田が男性として不能であることを冗談めかして話していると、突然傷ついたような反応が返ってきたり。時田のほうは自分の体験を脚本にして唯に清書してもらうんですが、その中に若い女性に片想いしていることも全部あからさまに書いているので、唯が複雑な想いをしたり。そういう心理の機微にゾクゾクさせられました。さりげないお芝居なのに見事でしたね。
不二子 いやあ……、そんなふうに感じていただけたら嬉しいです。
――この映画は現実と虚構が入り乱れていくようなところがあって、不二子さんも現実の時田とのやり取りも演じれば、時田の脚本を読みながらの一人芝居もありますよね。そういう演じ分けが難しそうだと思うのですが、高橋監督は役者さんにどんな指示を出されるんですか?
不二子 それが、監督はそういうことをあんまりおっしゃらないんです。テストを何回かするんですが、そこでも「ここはこういう言い方で」とかいうのがなくて、スルッと「じゃあ本番」という感じで。「あれっ、本当にこれでいいのかな?」っていう不安な感じがずっとありましたね。まあOKって言っているんだからいいんだろうと思って、できたらもう1回やり直したいな……というシーンもあったんですけど、セットを作り直すのも大変だしなあって。脚本の中でも「編集の力を信じろ」っていう台詞があるし、編集でうまくやってくれるんだろう、とお任せして、できたのを見たらバサッと切られてる、みたいな(笑)。
――じゃあその台詞を実際の編集でも実践している感じなんですか。バサッと潔く切ってしまったり、脚本と流れが違っていたり。
不二子 まあ全然違うふうにはならないんですけど、潔いなとは思いましたね。本当にバサバサッと、撮影の撮り方もそうですし、編集も「こんなんできました」というぐらいの感じで。
――面白いですね。映画の中で時田が学生たちに言っていることと、高橋監督が実際にやっていることが一致しているという。何重にも入り組んでいますよね。
不二子 映画の中でも「律子」が実在するのか、時田の妄想なのか、あやふやだったりするじゃないですか。そういう嘘みたいな本当みたいなっていうのが面白いなと思いますね。