『ドキュメンタリー映画 100 万回生きたねこ』
『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』
小谷忠典監督最新作
第 30 回 マルセイユ国際映画祭インターナショナルコンペティション部門 正式出品
第 20 回 ニッポン・コネクション NIPPON VISIONS 部門 正式出品
第 43 回シンガポール国際アートフィスティバル 招待上映
セント・アンドルーズ映画祭 2021 最優秀撮影賞
たまらん坂
2022年3月19日(土)より新宿 K`s cinema ほか全国順次公開
監督 小谷忠典 × 原作 黒井千次
4 年の歳月を経て完成――「武蔵野」を舞台に織り成す新たな映画体験
小雨降る秋の日、女子大生ひな子(渡辺雛子)が寺の境内を歩いている。毎年、母の命日には父の圭一(古舘寛治)と墓参りに訪れていたのだが今年はひな子一人であった。ふと母の墓前に一輪のコスモスの花が供えられているのが目にとまる。母が亡くなってから 17 年、祖父母も鬼籍に入っており他人の影を感じることはなかったひな子は不審に思う。携帯電話が鳴る。受話器の向こう側では飛行機が欠航になり墓参りには来られないことを告げた上で、「たまらん」と漏らす圭一の声が聞こえる……。
国内外で注目を集めたデビュー作『LINE』をはじめ、『ドキュメンタリー映画 100 万回生きたねこ』『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』など意欲作を生み出してきた小谷忠典監督が、武蔵野大学/武蔵野野文学館の協力の元、黒井千次氏の短編集を基に四年に及ぶ撮影期間を費やして完成させた長編劇映画『たまらん坂』。マルセイユ国際映画祭をはじめ各国の映画祭で評価された本作が、待望の日本公開となる。
主人公・ひな子を演じるのは、武蔵野大学在学中に抜擢され映画初出演を果たした渡邊雛子。渡辺真起子、古舘寛治、小沢まゆ、七里圭ら日本映画界を支える面々が脇を固めているほか、RC サクセションの名曲「ロックン・ロール・ショー」「多摩蘭坂」も劇中に登場、劇中歌にシンガーソングライターの松本佳奈、アニメーションに大寳ひとみが参加するなど多彩な面々がモノクロームの世界観に彩りを添えている。
- 小谷監督のドキュメンタリー精神が物語と融合した「たまらん坂」は予期せぬ映画だ。黒井千次の「たまらん坂」が原作だが原作から自由にストーリーを創りあげ、たまらんという感情を表現する言葉のイントネーションの響きをみごとな奥行ある物語に仕上げられている。そしてモノクロームの静謐な時間の中で、現実の女子大生が不思議な虚実の存在感を表している。 ――石内都(写真家)
- 本を読むということは、その言葉たちから何かを受け取るということな気がしています。目で文字を追い、言葉が頭に入り、自身と混じり合うことで新しい自分に出会う。それは誰もが唯一無二の体験をできるということ。現実世界で葛藤するひな子に手を差し伸べた「たまらん坂」のように、自分に手を差し伸べてくれる一冊の本にいつか出会えるかもしれないという希望のような気付きを受け取ることができた映画でした。 ――小谷実由(モデル)
- 原作者の小説家、黒井千次がイマジナリーな存在として登場し、言葉で造られしものの実存性を語るのだが、フィクションにドキュメンタリーが混線するシーンは、映画芸術の虚構性を明らかにしているようで、興味深かった。処世の作法を知り、澄んでいた瞳を曇らせてゆく主人公・ひな子を前に、老小説家は言葉を詐術に貶めることの愚かさを、諭していたのではなかったか。 ――諏訪敦(画家)
- すべての坂にはたぶん名前とその由来がある。そしてすべての人間には例外なく個的な来歴がある。文庫本を片手に地名をたどる日本語への旅は、いつしか自身のルーツを武蔵野にたどる主人公の道行きにぴたりとかさなってゆく。この映画では、土地も人間も、まるで頁をめくられるのを待つ本のように存在している。 ――萩野亮(映画批評・本屋ロカンタン店主)
- 小谷忠典監督の求める出会いの回路は、沖縄でもメキシコでもこの武蔵野でも、まだだれも歩いたことのないものだ。原作小説から映画へ、こんな関係でつながれた例をほかに知らない。小説を読むことをとおして知るべきことに向かい、自分のふるさとを発見するヒロインひな子。故郷喪失の主題の先へと踏みだす新たな映画の使命が、何を写して何を写さないかを考え抜いたストイックな白黒映像で、告知されている。 ――福間健二(詩人・映画監督)
- 解釈によって、一つの「坂」が自由な広がりを見せる様が面白い。主人公はゆかりの地と人を訪ねながら、失われた幼い頃の記憶を取り戻していく。それは、目の前にある坂の存在に気づくことであり、川の流れを見つめること、亡き母の唄を聴きとること。よるべない小さな存在に思えても、人は土地に組み込まれて生きている。たまらん坂に導かれよう。上質な故郷(母)探しの物語だ。
――文月悠光(詩人) - ゴダールの『アルファビル』のようにとまでは言わないにしても、「今」がまるで近未来のように描かれ、やがて時制と空間が縦横に交錯し、生者と死者が往還し、朗読される小説の主人公がいつのまにか映画の主人公に乗りうつる。たまらん坂を上った先(下った先?)に、今度はアリスの「不思議の国」が待っているかのよう。川と記憶は静かに流れ、滞留し、その川面にアリスならぬオフィーリアのごとく身をまかせた主人公が、最後の最後で自分自身を再生させるラストシーンには、やはり「感動」の一言が相応しいと思う。
――万田邦敏(映画監督) - 「あなたは想像上の人物ですよね?」
読者のひな子の問いに、作者の黒井千次が返した言葉に導かれるようにして小説と映画が自在に往還する。故郷を探して葛藤するひな子と、逆上して坂道を駆け降りていった若き日の妻の姿が交錯する。郷愁を誘う美しいモノクローム映像と、忌野清志郎のやるせない歌声が響き合う。まるで現実と虚構のあわいを辿りながら一冊の書物を読み終えたようなスリリングな映画体験だった。
――盛田隆二(小説家) - 映画と文学を横断し、過去と現在を織り交ぜ、様々な映画ジャンルと結び、苦しみと優しさを抱き合わせた作品を作る。簡単にできるものではない、なんという野心!全てが挑戦でしかない!困難と思われた全ての課題は、例えば野原でバッハの曲をバイオリンで弾く女学生のシーンに見られるような、絶え間ない魔法と信じられないくらいの正確さを持つ強い作家性と大胆さで見事に克服されていました。 ――ジャン=ピエール・レム(マルセイユ国際映画祭 総合ディレクター)
監督:小谷忠典 脚本:土屋忍,小谷忠典 脚本協力:大鋸一正
撮影:倉本光佑,小谷忠典 録音:柴田隆之,永濱まどか 助監督:溝口道勇,老山綾乃
制作:梅地亮,大野秀美,小川侑真,刑部真央,加賀見悠太,黒澤雄大,小亀舞,小松俊哉,高瀬志織,田中美和,野本理沙,
橋野杏菜,畠山遥奈,平林武留,松井優香,山路敦史,山本裕子
整音:小川武 編集:小谷忠典 子守唄:松本佳奈 音楽:磯端伸一(ギター・磯端伸一 ピアノ・薬子尚代)
使用楽曲:「ロックン・ロール・ショー」「多摩蘭坂」RC サクセション
アニメーション:大寳ひとみ タイトルデザイン:hase
企画・プロデューサー:土屋忍 製作:武蔵野文学館 原作:武蔵野短篇集「たまらん坂」黒井千次
宣伝デザイン:tobufune 配給・宣伝:イハフィルムズ
2019/日本/モノクロ/16:9/DCP/5.1ch/86 分