青山 真治 (監督)
映画『共喰い』BD/DVD発売に寄せて
2014年3月5日(水)より、青山真治×田中慎弥×菅田将暉『共喰い』BD/DVD発売
作家・田中慎弥氏の芥川賞受賞作を映画化した『共喰い』(監督:青山真治 脚本:荒井晴彦)が、3月5日に待望のBD/DVD発売を迎える。劇場公開時にスクリーンで鑑賞した筆者は、本インタビューにあたってDVDを見直すうち、画面のそこかしこに配された細やかな演出の多くを見落としていた事実に気付かされ、ひたすら嘆息するばかりだった。とりわけ物語の重要な局面で反復される縦構図の演出、それと完璧に同調したカメラワークには非常な感銘を受けた。この感銘の源泉に迫るべく、演出に込められた意図を青山監督に伺った。(取材:後河大貴)
<Story> 昭和63年、山口県下関市。『川辺』と呼ばれる場所で、17歳の遠馬は父とその愛人と暮らしていた。父には「セックスの時に女を殴る」という暴力的な性癖がある。そのため、産みの母は遠馬が生まれてすぐ、彼を置いて家から出ていった。粗暴な父を疎んで生きてきた遠馬。だが、彼は幼なじみの彼女・千種と何度も交わるうちにやがて自覚していく。自分にも確かに父と同じ忌まわしい血が流れていることを――。
――仁子役の田中裕子さん、円役の光石研さんはさることながら、若い役者さんたちのにおいたつような存在感に、終始、圧倒されてしまいました。
青山 恐縮です。
――原作者の田中慎弥さんは、主人公・遠馬役の菅田将暉さんを評して、「眼が媚びてない」と仰っていましたが……。
青山 田中さん本人も眼が媚びていないんです。映画の撮影中、田中さんが現場に来たことがあったんですよ。ちょうど僕は遠馬を撮影をしていたんですけど、ふと振り返ったら田中さんがいらしていた。そのとき初めてお会いしたんですけど、「ふたりの眼は似てる!」って思ったんですよね。
――キャスティングの段階で、とりたてて田中さんを意識されたわけではなく?
青山 それは全然意識してないですね。田中さんの顔はお写真では拝見していたんですが、オーディションのときに菅田君の顔を見ても、田中さんのことは1ミリたりとも思い出しませんでしたね。なんですけど、現場でお会いした田中さんの眼は遠馬に似ていた。さらに、何かのときにふと光石さんを見たら、田中さんに似ているんですよね。そのとき、「ああ、似てるじゃんこの人たち」って思いましたね。
――千種役の木下美咲さんも凛々とした眼をされていて、青山監督ご自身が仰られているように「痛々しいまでに清潔な体つき」が非常に印象的でした。やはり、そのあたりがキャスティングの決め手になったんでしょうか?
青山 そうですね。このふたりの中から、ある種の痛ましさみたいなものが出てくると、清潔な作品になるんだろうな、と。こういう淀んだ世界で、痛々しいまでに清潔な人たちが蹲っている、みたいな。そういう映画になればいいなあと思ったところはありました。
――琴子さん役に篠原ゆき子さんをキャスティングされたのは、劇団ポツドールの『おしまいのとき』(11)をご覧になったのがきっかけだったそうですね。
青山 一番初めに彼女の芝居を見たのはその時でしたね。土曜日の昼間の回に下北沢まで行って見たんですけど、顔はほとんどわからなかったですよ。僕の席が結構後のほうだったこともあるんですけど、それだけじゃなくて、あの芝居って客席から彼女の顔がほとんど見えないんですね。かつ、客席に背中を向けている芝居が多い。で、どんな顔をしているのかよくわかんないまま観劇を終えて、「うん、面白いなー」とか思いながら帰ったんですね。
それからしばらく経って、僕が役者さんのワークショップをやったさいに彼女が来たんですよ。その時、僕はポツドールの芝居に出ていた彼女だとまったく気付かなくて、でも、「どっかで見た名前だな」って思ってたんですね。で、ワークショップも終わって、『共喰い』のキャスティングをするさいに、ふと「ワークショップの中から誰かいないかな?」って感じでプロフィールを見てて、引っ掛かったんですね。そこで初めて篠原さん本人にお会いして、出演のお願いをしました。