――なるほど。機械の言いなりになっているヒーローを中村優一さんがチャーミングに演じていました。三枚目演技が意外なほどハマっていましたね。

井口　中村さんはワークショップを最初から受けてくれていたんです。俳優業を一時お休みしていて、復活してからまもなくだったんですよね。すごく緊張していて、真面目なんですけど硬くなっちゃっているところがあって、真面目さゆえの不器用さにとても好感が持てたんですよね。ルックスがよくて自分に自信があるというタイプじゃなくて、むしろ不器用でイケメンにあぐらをかいていないというか（笑）。彼を演出するなら最初からカッコイイ役じゃなくて、不器用で生真面目なところから徐々にヒーローに見えてくるという、段階を入れたほうがいいかなと思ったんですよね。「イケメンの皮をはいでくれ」って言ったんですけど、カッコ悪いところからスタートして。彼の役にはモデルがいて、僕よりも先輩の自主映画の監督なんですね。もうお亡くなりになっているんですけど。

――しまだゆきやすさんですよね。役名はそこから付けられて。

井口　ええ、しまださんをモデルにして。不器用だけどいいやつというか、そういうところからスタートしたいなと思ったんです。

――しまださんはそういう方だったんですね。

井口　はい。いつもGジャンを着ていて。だから映画でもGジャンは着せたいなと。実は雰囲気的に中村さんにちょっと似ているんですよね。もう亡くなって6、7年ぐらい経ちますけど。

――そうなんですか。私はしまださんを存じ上げなかったのですが、亡くなったときにインディーズ系の映画関係者の方々がネット上に追悼の言葉を書いているのを見て、とても大事な方だったんだなと思いました。

井口　若手の自主映画の作品の上映をしていた方だったので、その功績は大きいと思います。スマホとかが普及する前に亡くなったから、もしも今しまださんが生きていらしたら、この現状を見てビックリするんじゃないかなって思って。自分で自分を撮って何かに発表したりするのって、昔はモテない人がやることだったんですよね。それを普通にみんなやっていて、ファストフードのお店とかでも急にカメラに向かってしゃべり出したりしちゃうじゃないですか。自主映画のオタクの人しかやらないことだったのに、こういう世の中になっちゃったんだなあ……、と僕も結構ビックリしていますからね。

――本当ですよね。それをしまださんにも見せてあげたかったなと。

井口　ええ。それで「しまだ」がこういう役になりました。中村さんにとっては今までやったことがない役だと思うんですけど、「のび太くんのような役柄だから」と説明していましたね。ピンチになると人に甘えてしまう甘えん坊の感じで、そこから徐々にイケメンの数値を戻していき、そしてラスト・シーンではもう本当の王子様になると。王子様演技をやると本当にすんなりできるんですよね。逆に自分がモテないことをお姉さんに告白するシーンで演技に悩んでいたみたいだったので、僕も結構厳しく粘りましたね、「まだモテてるやつの芝居だよ！　もっとダメな感じで！」みたいな（笑）。カッコよくなっていく演技は安心して見ていられました。あとは裸のまま闘うっていうのをちょっとやってみたくて。上半身裸で面だけ被って闘うって（笑）。それはノってやってくれましたね。