ヤン・ヨンヒ (映画監督)
映画「かぞくのくに」について
2012年8月4日(土)より、テアトル新宿、109シネマズにて公開中!
8月11日(土)より、名古屋シネマテーク、テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸、シアターキノ、KBCシネマ1・2にて公開、以降全国順次ロードショー!
10代で北朝鮮に移住した3人の兄たちと、日本に住む両親にカメラを向けたドキュメンタリー『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』で、家族への想いを綴ってきた在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督。初のフィクション作品となる『かぞくのくに』でも自らの体験に基づき、病気治療のために25年ぶりに北朝鮮から帰ってきた兄と、彼を迎える家族との束の間に終わる再会の日々を、妹の視線から描き出している。政治によって歪められ、しかし葛藤の中でも思い合う家族の姿を俳優たちが鋭い感性で演じ、強度のあるドラマはワールド・プレミアとなったベルリン国際映画祭を始めとする海外の映画祭ですでに絶賛を受けてきている。日本では先だっての8月4日に公開を迎え、その初日のお忙しい合間を縫ってヤン監督にお話を伺うことができた。少女時代に兄と離れ離れになった喪失感と思想教育のフラストレーションを晴らすために通った映画館で世界を広げ(原作本『兄~かぞくのくに』に詳しい)、時を経て立ち見が出る中舞台挨拶を行い、長蛇の列となったサイン会で観客の想いを受け止めた直後のインタビューで、ヤン監督は作品についてとともに映画への熱い思いも語ってくださった。(取材:深谷直子)
――日本では震災があったことでそういう問題をますます考えるようになりました。
ヤン 普段政治のことをあまり考えずに生きられるのは、経済力があって便利な生活ができているからだと思いますけど、でも私たちも翻弄されているんですよね。政治というのは私たちがボーッとしているとガンガン生活に入ってきて振り回しますからね。本当は国民が政府を監視するぐらいがちょうどいいと思うんですけどね。政治家が偉そうにするのじゃなくて。やっぱり私たちが知らないところで電力会社だったり政府だったりが重要なことを決めている、そういう世界で私たちは生活しているんだということも気付いてほしいんです。日本もちょっと前には戦争があって、召集があると親たちは文句も言えずに行かせたくないのに泣く泣く子供を行かせていたわけですよね。そのときどういう気持ちだったかということを今になってやっといろいろ語れるようになりましたけど。在日もいろんな状況にあるけど、北朝鮮に家族がいるから何も言えない、言葉悪く言えば人質のようになっているのももうそろそろやめにしましょうよ、という思いがありますね。
――自由に声を上げていい世界で暮らしていることの有難さに気付かなければいけないですね。
ヤン あとはみんなが知らない、歴史の中で埋もれていた事実にライトを当てたいなというのもあって。最近そういう映画が多いですよね、『サラの鍵』(10)とか『オレンジと太陽』(10)とかね。日本でそういう映画はもっと地味になってしまうので、売れっ子の俳優が出て若い人が観に来るっていうふうにもっとなればいいなと思いますね。私にとって映画館は世界を知る学校だったから。こんな人生があるのか、こんな時代があるのか、こんな国があって同じ時代なのにこんなにも違うのか、とか、そういうのを映画で本当にいっぱい勉強したので。ちょっと大げさに言うとね、どこかにあるんですよ、自分が今まで映画から、世界中の先輩の監督から受けてきた恩恵みたいなものを、映画で恩返しみたいなことができれば嬉しいなあというのが。映画祭で観てくださった方で「自分も家族の映画を作っていて、悩んでストップしているんだけど、観て勇気付けられました」という人がいたりもして。そういう影響が発生していくと嬉しいですね。
――それが映画の力ですよね。監督の人生は葛藤がいろいろあったのだと思いますけど、それを出して解放することで、他の人たちもこうやって出していいんだなと思うでしょうし。
ヤン 在日だけが苦労しているみたいな言い方をされることがいちばん嫌で。私は兄がピョンヤンにいるとか在日だからということでの苦労もあったけど、DVの経験もないし親も仲がよかったし、でもそういうところでの苦労をしてきた人もいるだろうし。みんな違うものを背負っているから、それぞれが自分が背負っているものをもっとオープンに見せ合えばいいと思うんですよね。あと、本当にいろんな映画を観てほしい。こんなに映画館が充実している日本で暮らしてて、日本映画しか観ない若者が多いなんてあり得ないと思ってるんです。それこそソンホじゃないけど北朝鮮の人って外国の映画が観たくて気が狂いそうな思いをしていて、韓流ドラマを命懸けで観ているんですよ。本当に命懸けで、だって見つかれば罰則が厳しいから。それでも観るのは自分たちと違う生活を知りたいからですよね。だから本当に好奇心を持ってほしいと。そういうのを観ると世界中に今いかに政治で引き裂かれている家族が多いかというのも分かると思いますよ。相当世界が広がると思うんですけどね。
――この作品は日本の映画界にも勇気を与えると思います。
ヤン 映画を作る側の姿勢として、やっぱりオリジナルで作るとか政治的な映画とか、そういうことを大事にしたいですね。政治的じゃない映画なんてないと思うんですよ。それは海外の映画祭では当たり前に語られることなんですよね。政治的な映画だから敬遠するなんて笑われますよ。政治的だけど面白かったりスケベだったり、そういう映画を作りたいなあ。だって一人一人の人間が悲劇も持ってるし喜劇も持ってるしエロティシズムも持ってるし、でも政治抜きで存在できる人間なんていないんですから。
――今後の活動も楽しみにしています。まずはこの『かぞくのくに』からですね。今日を皮切りにこれから全国各地で公開され、韓国でも公開が決まっているとのことですよね。世界中の大勢の方に観ていただきたいと思います。
ヤン とにかく一人でも多くの方に観てもらいたい、それだけですね。授業ではないので、分からないことがいっぱいあっていいと思うんですよ。帰国事業が分かって観るべきだとか全然そんなことは思わなくて、私もいろんな国の映画を歴史を全然知らなくて観ますけど、それでも泣いたり笑ったりできるところが映画の素敵なところで。観てもさっぱり分からなかったけど、なんか泣けたとか腹立ったとか、それでいいと思う。でも出演者のみなさんの演技でそれぞれの人にとって記憶に残るシーンがあると思うので、忘れられないシーンとか台詞があったら映画をまた観たり、もしくはグーグルで調べたり、そういう映画になると嬉しいですね。
( 2012年8月4日 テアトル新宿で 取材:深谷直子 )
出演:安藤サクラ,井浦新,ヤン・イクチュン,京野ことみ,大森立嗣,村上淳,省吾,
塩田貞治,鈴木晋介,山田真歩,井村空美,吉岡睦雄,玄覺悠子,金守珍,諏訪太朗,宮崎美子,津嘉山正種
企画/エグゼクティヴ・プロデューサー:河村光庸 プロデューサー:佐藤順子/越川道夫 音楽:岩代太郎
監督・脚本:ヤン・ヨンヒ 撮影:戸田義久 照明:山本浩資 音響:菊池信之 美術:丸尾知行 装飾:藤田徹
衣装:宮本まさ江 ヘアメイク:橋本申二 編集:菊井貴繁 監督補:菊地健雄 助監督:高杉考宏
制作担当:金子堅太郎 宣伝プロデューサー:竹内伸治 製作:スターサンズ 制作:スローラーナー
宣伝協力:ザジフィルムズ 配給:スターサンズ © 2011『かぞくのくに』製作委員会
2012年8月4日(土)より、テアトル新宿、109シネマズにて公開中!
8月11日(土)より、名古屋シネマテーク、テアトル梅田、京都シネマ、
シネ・リーブル神戸、シアターキノ、KBCシネマ1・2にて公開、以降全国順次ロードショー!
- 映画原作
- (著):ヤン・ヨンヒ
- 発売日:2012/7/23
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