ポーランド映画祭2013
http://www.polandfilmfes.com/2013年11月30日(土)~12月13日(金)、
シアター・イメージ・フォーラムにて2週間限定開催
戦後のポーランド映画界を牽引した巨人
アンジェイ・ワイダ監督の軌跡
昨年の秋に開催され、連日満員の大盛況の内に幕を閉じたポーランド映画祭が、今年も開催される。今回もポーランド映画界の重鎮であるイエジー・スコリモフスキ監督が監修として参加し、1960年代を中心にした10作品と、アンジェイ・ワイダ監督の傑作7本(『地下水道』『灰とダイヤモンド』『すべて売り物』『戦いのあとの風景』『大理石の男』『鉄の男』『コルチャック先生』)、ジャパンプレミアとなる新作3本(『イーダ』(パヴェウ・パヴリコフスキ監督)、『ライフ・フィールズ・グッド』(マチェイ・ピェプシツァ監督)『巻き込まれて』(ヤツェック・ブロムスキ監督))、60年代にポーランド国内でテレビ放映された児童アニメの名作2本の全22作品が上映される。
上映は一部を除きデジタルリマスター版での上映となるほか、再上映の要望が高かった6作品(『夜行列車』(イエジー・カヴァレロヴィッチ監督)『地下水道』(アンジェイ・ワイダ監督)『さよなら、また明日』(ヤヌシュ・モルゲンシュテルン監督)『不運』(アンジェイ・ムンク監督)『沈黙の声』(カジミェシュ・クッツ監督)『サラゴサの写本』(ヴォイチェフ・イエジー・ハス監督))もアンコール上映される。ポーランド映画の魅力に触れられる貴重な二週間を見逃すことなくぜひ劇場まで足を運んでいただきたい。
11月30日[土] 舞台挨拶、トークショ-
『不戦勝』上映前――――開幕舞台挨拶
登壇:イエジー・スコリモフスキ監督/ツィリル・コザチェフスキ駐日ポーランド大使/アグニエシュカ・オドロヴィッチさん(Polish Film Institute代表)、ヤツェック・ブロムスキさん(Polish Filmmakers Association代表)(「巻き込まれて」監督)(予定)
『不戦勝』上映後――――イエジー・スコリモフスキ監督による解説トーク(予定)
『巻き込まれて』上映後――――ヤツェック・ブロムスキ監督によるティーチイン(予定)
『沈黙』監督:カジミェシュ・クッツ ( 1963年/102分/モノクロ/デジタル・リマスター版 )
批評家に高く評価されたクッツの長編第五作。原作はイエジー・シュチギェウが前年に発表した同名小説。原作者とクッツ自身が共同で脚本を執筆した。1945年、街の住民から疎外されている十代の若者が、証拠がないにも関わらず司祭暗殺未遂の嫌疑をかけられる。司祭は若者が真犯人ではないことを承知していながら、その事実が明かされることで自らの地位が失われることを怖れ、沈黙を守り続ける……。
『サルト』
監督:タデウシュ・コンヴィツキ ( 1965年/106分/モノクロ/デジタル・リマスター版 )
小説家としても名高いコンヴィツキは昨年上映したデビュー作「夏の終りの日」でヌーヴェル・ヴァーグを予見した作風を披露したが、60年代の半ば頃になるとポーランドの歴史や第2次大戦中の道徳的ジレンマを主題にした作品を発表。本作も戦争の暗い影から逃れられない民族の宿命を描いた力作。ブルメンフェルト役を演じたヴウォジミェシュ・ボルンスキはユダヤ人役の多い名脇役。
『不戦勝』監督:イエジー・スコリモフスキ ( 1965年/70分/モノクロ/デジタル )
ポーランド派以後に登場した監督のなかでひと際抜きんでているのがスコリモフスキである。新しい世代の経験や価値観を斬新な形式で表現した彼はロケ中心の撮影、即興的な演技、自伝的な要素等を盛り込んだ作品でフランスのヌーヴェル・ヴァーグ風な感覚を打ちだした。本作はボクサーで賞金稼ぎをし生計を立てる若者を監督自らが演じ、孤独で反抗的な人物を造形している。
『灰とダイヤモンド』
監督:アンジェイ・ワイダ ( 1958年/104分/モノクロ/デジタル・リマスター版 )
ヴェネチア映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しポーランド映画の存在を一躍世界に知らしめた歴史的作品。戦後のポーランド映画界を牽引した巨匠ワイダの名は本作によって映画ファンにあまねく知られることとなった。戦争中レジスタンスとして活動し戦後はテロリストとなり悲惨な最後を遂げた青年の姿をシャープなモノクロ映像で描いた傑作!
『サラゴサの写本』
監督:ヴォイチェフ・イエジー・ハス ( 1965年/182分/モノクロ/デジタル・リマスター版 )
アンコール上映 17世紀のスペインを舞台に繰り広げられる愛と冒険の物語。現代音楽の鬼才ペンデレツキのサウンドにのせて語られる本作は〈ポーランド派〉以降登場した歴史・文芸路線の代表的な1本。夢の論理をそのまま視覚化したような迷宮感覚は、今見ても衝撃的。ルイス・ブニュエルをはじめコッポラ、スコセッシ、リンチ、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアらが熱狂した超カルトな幻想怪奇譚である。
『すべて売り物』
監督:アンジェイ・ワイダ ( 1968年/100分/カラー/デジタル・リマスター版 )
「灰とダイヤモンド」の主演俳優、ズビグニェフ・ツィブルスキの痛ましい死を受けてワイダが監督したこの映画は、自己内省的作風の異色作。ツィブルスキの名を出さずに彼の友人たちが実名で登場、ワイダ映画を通り過ぎていった人間の影についての作品である。人生のあらゆる要素は映画芸術に転化可能という発想が「81/2」や「アメリカの夜」のような“映画内映画”を創造している。
『戦いのあとの風景』
監督:アンジェイ・ワイダ ( 1970年/107分/カラー/デジタル・リマスター版 )
アメリカ軍によるドイツの強制収容所解放から幕を開ける本作は、生存者の男女に芽生えた愛をめぐる物語。70年代初頭、ワイダは歴史的・政治的状況よりも登場人物の心理に焦点をあわせた作品を数多く発表するが、タデウシュ・ボロフスキの短編小説を基にしたこの映画もそのなかの1本である。愛する者の死が主人公を精神的に覚醒させるというテーマはこの時期ワイダが好んだ主題。
『地下水道』監督:アンジェイ・ワイダ ( 1957年/96分/モノクロ/デジタル )
アンコール上映 ポーランド・ロマン主義の伝統を受け継ぐワイダが、ワルシャワ蜂起に参加したイェジ・ステファン・スタヴィンスキの脚本で撮った傑作。対独レジスタンスが地下の下水道で繰り広げる壮絶な死闘を非情なドキュメンタリー・タッチで描いたこの映画は、光と影を巧みに使った斬新な演出で後年ホラー、サスペンスジャンルの作品に多大な影響を与えている。カンヌ映画祭審査員特別賞。
『さよなら、また明日』
監督:ヤヌシュ・モルゲンシュテルン ( 1960年/87分/モノクロ/デジタル・リマスター版 )
アンコール上映 「灰とダイヤモンド」で主人公マチェックを鮮烈に演じ東欧のジェームズ・ディーンと呼ばれたズビグニェフ・ツィブルスキが脚本・主演した知られざる傑作。フランス人の若い娘との淡い恋物語がヌーヴェル・ヴァーグ風の軽快なタッチで描かれる。社会主義政権下でありながら西側の文化が徐々に浸透してきた時代の雰囲気を表現。ポランスキーのゲスト出演とコメダの音楽も必見・必聴。
『不運』監督:アンジェイ・ムンク ( 1960年/113分/モノクロ/デジタル )
アンコール上映 30年代から50年代のポーランドを舞台に日和見主義者の青年が語る人生悲話。6回のフラッシュバックにおいて描かれるのは、共産主義やファシズム、戦争の影響で歴史の犠牲となってしまった悲運な個人の肖像である。わずか5本の長編作品を残し、40歳の若さで事故死したムンクは、人間に対する深い洞察をもつ作風で、現在もなお多くの作家に影響を与えている。
『沈黙の声』監督:カジミェシュ・クッツ ( 1960年/83分/モノクロ/デジタルリマスター版 )
アンコール上映 〈ポーランド派〉の活躍した時期に作られた作品ながら長い間論じられることのなかった幻の傑作。後のヌーヴェル・ヴァーグやアントニオーニの作品群を予見した映画である。逃亡兵と若い女の恋物語がわずかな台詞、ヴォイチェフ・キラルの音楽、大胆な画面構成で描かれ、製作当初当局からすぐに上映許可が下りなかった衝撃の1本。
『ボレック&ロレック』 ( 80分/カラー/デジタル )
ボレック&ロレックは1963年、ヴワディスワフ・ネフレベツキによって誕生したTVアニメーション。作者のネフレベックの息子2人をモデルにした短編で、兄弟のボレックとロレックが夢のような冒険に旅立つという物語を放送していた。今年生誕50年となるポーランドの傑作アニメーション。
『魔法のえんぴつ』 ( 62分/カラー/デジタル )
1964年に国営テレビに登場した魔法のえんぴつは、アニメーション・スタジオ“セマフォル”が初めて制作した作品。主人公ピョートルに何か起こるたび、妖精が現われ"魔法のえんぴつ”を渡してくれる。そのえんぴつで絵を描くと、あら不思議描いたものが現実になり、みんなを幸せにする。いわばポーランド版ドラえもん。黄色のおかっぱ頭の少年の可愛さに誰もが癒される。
『夜の第三部分』
監督:アンジェイ・ズラウスキ ( 1972年/105分/カラー/デジタル・リマスター版 )
「ポゼッション」「私生活のない女」等、歪んだ恋愛劇でカルトな人気を誇るズラウスキの監督デビュー作。チフス菌実験のためにドイツ人に雇われた男が体験する悪夢の世界をショッキングな描写、表現主義的な演技、様式的な台詞で構築した本作は、悪魔に魅入られてしまう東欧的な精神風土の映像化として興味深い1本。ソフィー・マルソーとのコラボレーションで作られた映画の原点はここにあり。
『砂時計』
監督:ヴォイチェフ・イエジー・ハス ( 1973年/125分/カラー/デジタル・リマスター版 )
人物の心理に焦点をあわせたポーランド派の作風から一転し、60年代半ば以降大掛かりな歴史物を撮り始めたハス監督。昨年上映され大人気となった「サラゴサの写本」同様本作も夢想的・超現実的映像の迷宮世界が展開。原作はブルーノ・シュルツの「砂時計のサナトリウム」。画家マルク・シャガールの絵画世界とも共通する夢の論理で見るものを刺激する傑作。
『夜行列車』
監督:イエジー・カヴァレロヴィッチ ( 1959年/100分/モノクロ/デジタル・リマスター版 )
アンコール上映 アンジェイ・ワイダ、アンジェイ・ムンク監督と共に50年代後半に登場したポーランド派を代表する作家の一人イエジー・カヴァレロヴィッチ。恋人と別れた女、逃亡中の殺人犯……。列車にはさまざまな人々が乗り合わせている。ワルシャワからバルチック海へと疾走する列車の中で描かれる乗客達の人生模様。メロドラマ風でありながら大胆なカメラワークでクールな叙情がただよう傑作。
『大理石の男』監督:アンジェイ・ワイダ ( 1977年/160分/カラー/デジタル )
記録映画を製作する女性監督を主人公にしたワイダ監督の問題作。取材のため、博物館を訪れたヒロインがみつけた古い大理石の像。謎めいた導入からやがて明らかにされる歴史の裏の真実とは……。ポーランドではタブーとされていたスターリン時代の暗黒面をサスペンスたっぷりに暴き出した本作は80年代の“連帯”結成を予見したとも言われている。カンヌ映画祭国際批評家連盟賞受賞。
『鉄の男』監督:アンジェイ・ワイダ ( 1981年/152分/カラー/デジタル )
ポーランドの民主化運動“連帯”が活動を始めた80年以降、政治的メッセージを先鋭化した作品作りに邁進していたワイダが「大理石の男」に続いて発表した本作。グダニスクの造船所で実際に起こった労働者のストライキに想を得て、一人の若者の孤独な闘争の日々と彼の生活を抹殺しようとする体制側との関係を鋭く追求した問題作。カンヌ映画祭にてパルム・ドール(最高賞)受賞。
『コルチャック先生』
監督:アンジェイ・ワイダ ( 1990年/118分/モノクロ/デジタルリマスター版 )
世界初の小児科医で児童文学者としても名高いポーランドの伝説的ユダヤ人、ヤヌシュ・コルチャックの生涯を描いた名作。脚本アグニェシュカ・ホラント、撮影ロビー・ミューラー、音楽ヴォイチェフ・キラルといったすご腕のスタッフを従えてワイダが作り上げた大ヒット作品。ポーランドのユダヤ人が非業の死をとげたワルシャワ・ゲットーの描写と名優ヴォイチェフ・プショニャックの演技に涙。
『イーダ』監督:パヴェウ・パヴリコフスキ ( 2013年/80分/モノクロ/デジタル )
ジャパンプレミア 60年代初頭のポーランドを舞台に孤児として修道院で育てられた18歳のアンナが自身の出生の秘密を知るため、旅に出る。ユダヤ系の家に生まれたヒロインの家族には衝撃の過去が……。ホロコーストと共産主義の大きな波に見舞われてきたポーランドの光と影をモノクロの静謐な映像で表現。ワルシャワ映画祭およびBFIロンドン映画祭にて最優秀作品賞を受賞。
『ライフ・フィールズ・グッド』
監督:マチェイ・ピェプシツァ ( 2013年/107分/カラー/デジタル )
ジャパンプレミア 「マイ・レフトフット」や「フォレスト・ガンプ/一期一会」といった作品を想起させる本作は、幼少期より脳性小児麻痺の障害をもっている主人公の半生を描いた感動作。64年生まれのピェプシツァ監督は実話を基にしたこの作品で、正常であるとはいかなることかを観客に問いかける。実際の病院で撮影し本物の患者を出演させる等ジャーナリスト出身らしい演出で人生の悲喜劇を明るく描いた滋味深い一本。
『巻き込まれて』監督:ヤツェック・ブロムスキ ( 2011年/123分/カラー/デジタル )
ジャパンプレミア 90年代後半に40代の男女を主人公にした大人の恋愛コメディー「子どもと魚」(日本未公開)で注目を浴びたブロムスキ監督。本作はトラウマ克服の為セラピーを受けていた患者の殺人事件を描いたミステリー。元恋人同士だった検事と刑事が捜査を開始するが謎は深まるばかり……。46年生まれのブロムスキは現在ポーリッシュ・フィルム・アソシエーション(PFA)の代表をつとめている。