インタビュー
佐藤 寿保監督/『華魂 幻影』

佐藤 寿保 (監督)
映画『華魂 幻影』について【1/5】

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2016年4月30日(土)より、新宿K’s Cinemaにて公開

ピンク四天王の一人である佐藤寿保監督の『華魂 幻影』は、衰退していく映画と映画館へのオマージュを、感傷を排除し喧騒とともに描いたエネルギーあふれる作品だ。シリーズ第1弾の『華魂 誕生』は、学校のヒエラルキーの底辺にいた生徒の復讐を描いていたが、映画館はそんなはぐれ者たちの優しい受け皿とも言える場所。主人公である映写技師やほかの映画館スタッフ、客たち、劇中劇の登場人物までもが狂気に浸食されていき、いちどきに欲望を噴出させるクライマックスは、前作以上に人間くさくて狂おしい。本作のロケに使われたピンク映画館の飯田橋くらら劇場も、残念なことに今年5月末に閉館することが決まったが、忘れられ、消えゆこうとする映画の愉しみを人々にぶつけてやろう!と、見たことのない表現を繰り出してくる佐藤監督の情熱が映画復権に繋がることを信じてやまない。主演の大西信満さんに続き、佐藤寿保監督にもインタビューを敢行した。 (取材:深谷直子)
佐藤 寿保 1959年静岡県生まれ。東京工芸大学卒業後、向井寛主宰の「獅子プロダクション」に参加。ピンク映画の世界に足を踏み入れ、滝田洋二郎らの助監督を務める。85年『狂った触覚(激愛!ロリータ密猟)』で監督デビュー。同年ズームアップ映画祭新人監督賞を受賞。以後、日常にひそむ狂気と倒錯のエロチシズムをハードな映像で描き続けた手法はピンク映画という枠を超えた注目を集め、サトウトシキ、佐野和宏、瀬々敬久とともにピンク四天王と称され、その筆頭として人気が高まっていく。その作風はロッテルダム映画祭、ヴィエンナーレ映画祭など海外でも高い関心を集める。96年『藪の中』で一般映画に進出。代表作に『秘蜜の花園』(87)、『仮面の誘惑』(88)、『Naked Blood女虐』(96)、『やわらかい肌』(98)、『乱歩地獄・芋虫』(05)、『刺青』(06)。『名前のない女たち』(10)はモスクワ国際映画祭など多数の映画祭に出品され、カナダのファンタジア映画祭では主演の安井紀絵が主演女優賞を受賞した。本作『華魂』は佐藤監督のオリジナル企画、構想10年で念願の映画化が実現した。『華魂 幻影』は『華魂』シリーズの第二作目。2016年に新作『眼球の夢』の公開が控える。
Story 閉館間近の映画館の映写技師で沢村貞一(大西信満)は、毎日狭い映写室からスクリーンを見つめ続ける日々を送っていた。ある日、画面に見えるはずのないものが見えだしていた。黒ずくめの少女(イオリ)である。少女は何かを訴えるように沢村を見つめている。上映後、フィルムをチェックするが、少女などどこにも映っていない。
ある日、上映後の客席に幻影で見たあの黒ずくめの少女が目の前にいた。沢村は、少女を劇場の映写室の控え室でかくまう。上映中、ふと気がつくと、少女がいなくなっている。少女を捜すがどこにもいない。街をさまよう沢村。少女の幻影が沢村を誘う。少女に導かれるように、川原に来る沢村。沢村の失われた記憶が蘇る……。少女の頭に毒々しい色の花“華魂”が不気味に咲いている。少女は一体誰なのか。沢村との関係は。
佐藤 寿保――『華魂 幻影』は、構想10年の『華魂』シリーズの第2弾となりますが、舞台を映画館にするというのも当初から考えていたことだったのですか?

佐藤 実は10数年前に『華魂』として考えていた大本の構想は、今の作品とは別物だったんですよ。それはある路線バスが舞台で、運転手ともども乗客も狂っていき、“華魂”と化した路線バスが宙を飛ぶ……というような映画なんですよね。それをなかなか映画化できないというのもあって、渋谷プロダクションの小林(良二・本作プロデューサー)と「大手で予算のことをとやかく言われるよりも好きなものをやろう」という話をして、それで「せっかくだから春夏秋冬で年間4本撮ろう!」と、まあお酒の勢いもあったんだけど(笑)、そうやって企画が生まれていきました。それぞれストーリーは単独で、共通のキーワードとして華魂というか抑圧された欲望が噴出していくようなものをやろうと。第1弾でいじめをテーマにしたのは、いじめというのは前からあるものだけど、ちょうどその時期に問題化した事件があったからで、だから順番はどれからでもOKだったんですよね。第2弾で映画館を舞台にしたのは、映画館が次々に閉館していくというのが現実としてあって、自分たちが作っていたピンク映画がかかりにくくなり、テレビ番組の延長線上のような映画ばかりのご時世に、そうではないものを映画の内容に込めたというかね。『華魂』のテーマがそうなんだけど、「臭いものには蓋をしろ」っていうご時世の中で蓋を取っちまえ!と、晒してお客さんに投げ出したらどんなリアクションを取るのか?と。それで今回映画館を舞台にしました。

――ミニシアターや名画座など、この映画の舞台になっているような小さな映画館の閉館が本当に後を絶ちませんね。どんどんシネコンと毒気のない映画ばかりになってしまっています。

佐藤 まさしくそのとおりですね。今回撮影に使った上野オークラ劇場の旧館は、老朽化で別の場所に建て替えられていて、建物だけが残っていたのをいよいよ取り壊すという噂を聞き、貸し出してもらえる最後の2日間を借りて撮りました。あともう1館、営業中の飯田橋くらら劇場も1日だけ貸してもらって客席のシーンを撮ったんだけど、またショックなニュースが昨日飛び込んできてね。飯田橋くらら劇場も、建物の老朽化のために5月いっぱいで閉館すると。

――私も『華魂』のツイッターで知って驚きました。こういう映画を撮った矢先に。

佐藤 本当にショックなんだけど、それを嘆いてばかりいてもしょうがないわけで。俺が映画監督だからというのもあるんだけど、こういうご時世だからこそ自分にしかできない題材の映画をやりたいなと思うんです。映画館というのは非日常の空間で、日常生活では垣間見られないような世界観を今回はぶつけてみようと。第1弾の『華魂 誕生』(14)は学園ものにしたので割と若者に焦点を当てていたんだけど、映画館というのは老若男女が集まる場であって、そこで映写技師として働く主人公・沢村のトラウマと、観客たちが抱えている抑圧された欲望と、あと映画館でかかる劇中劇の内容までもが華魂に毒されていく、そんなふうに映画館全体を非日常の空間としてぶつけたら面白いかなと。

――面白いです。日常生活のうっぷんを晴らしまくりました。

佐藤 楽しんでいただけましたか(笑)! 映画で犯罪者を扱っているからと言って、それを観る人間が犯罪を犯すというわけじゃないんですよ。子供はもっと残酷な夢を見ちゃったりするわけで、そういうガキの脳みそを持っている大人にダイレクトに刺激物として提供して、相手も受け取ってくれたら作り手として非常に幸福だなと。それもあんまり重たい感じではなく、ある爽快感を持ち得る映画じゃないかなという自負があります。

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華魂 幻影 2016年/日本/カラー/ステレオ/83分
出演:大西信満 イオリ 川瀬陽太 愛奏 吉澤健 真理アンヌ 三上寛 他
監督・原案:佐藤寿保 プロデューサー:小林良二 脚本:いまおかしんじ 音楽:大友良英
共同研究:東京工芸大学 制作・配給・宣伝:渋谷プロダクション 製作:華魂プロジェクト
© 華魂プロジェクト
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2016年4月30日(土)より、新宿K’s Cinemaにて公開

2016/04/29/17:41 | トラックバック (0)
深谷直子 ,インタビュー
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