1 壁の中の秘事(若松孝二)…………………………………… | モルモット吉田 |
2 荒野のダッチワイフ(大和屋竺)……………………………… | 佐藤 洋笑 |
3 噴出祈願 15代の売春婦(足立正生)……………………… | モルモット吉田 |
4 ニュージャック&ベティ(沖島勳)……………………………… | モルモット吉田 |
5 ブルーフィルムの女(向井寛)………………………………… | モルモット吉田 |
6 濡れ牡丹 五悪人暴行篇(梅沢薫)………………………… | 島田 慎一 |
ピンク創世記 | 70年代黄金期 |
80年代ニューウェーブ |
四天王と90年代 |
ピンク七福神 |
大蔵ヌーヴェルバーグ/00年代ニューウェーヴ |
ウェイルメイド作家たち |
◆加藤義一監督インタビュー
2月28日(土)より3月20日(金)まで、
シアターイメージフォーラムにて開催!
壁の中の秘事 ( 1965年/若松プロダクション/分 )
監督:若松孝二 脚本:曾根中生 出演:藤野博子、吉沢京夫、寺島幹夫、可能かづ子若松孝二は団地を撮る名手である。60年代の若松作品における団地は、密室であり、世界のすべてであり、人間が食と性を営む巨大で無機質な空間として機能している。『性の放浪』(1967)冒頭で深い印象を残す唸り声のようなSEと共に映される団地の点描の不穏さや、『現代好色伝 テロルの季節』(1969)に観られる団地で大がかりなテロ映画を展開させてしまう手腕を目にすれば、若松と団地の不可思議な相性を十分に感じることができるだろう。本作は、現在我々が観ることが出来る若松の最初期の団地映画だ。単調な団地暮らしを送る夫婦と、かつて妻が愛した男、それを向いの棟から覗き見る浪人生といった一見古めかしいポルノの体裁を見せつつ、そこに原爆の後遺症や60年安保、ベトナム戦争といった記号が俄かに観客を色めき立たせる。何の変哲もない団地を世界のるつぼへと塗り替えていく若き若松のほとばしる才は現在においても鮮烈な印象を与える。
本作は第15回ベルリン映画祭へ日本の公式コンペティション作品として出品され、国辱騒動を引き起こしたことでも知られる。出演者には大島渚の『日本の夜と霧』で知られる吉沢京夫が夫を演じている。脚本の第一稿は曽根中生が執筆。
荒野のダッチワイフ ( 1965年/国映/85分 )
監督・脚本 大和屋竺 出演:辰巳典子、港雄一、麿赤児、大久保鷹「悪魔の辞典」を記し、70代にして内戦状態のメキシコに旅立ち、その行方を消したアンブローズ・ビアスの代表的短編小説「アウル・クリーク橋の一事件」をヒントにしたと伝えられる、大和屋竺の代表作。セリフ、映像ともにケレン味溢れる、あまりに“スタイリッシュ”で、怜悧な洗練がここにある。“寒そうに震えていた”殺し屋が、“熱い鉛を抱いて死んだ”という、自らが歌った『殺しの烙印』の主題歌「殺しのブルース」の名フレーズが象徴するダンディズムとアイロニー。大和屋が関わる作品全ての重奏低音がここで爆発している。そこに、銃弾を撃ち込まれた末に倒れこむ荒野の大木、反応に困るしかない人力ストップモーション、忍者モノの活動写真よろしくの唐突なジャンプカット、と洗練とは対照的な、反応に困るいかがわしさが紛れ込み、さらに「三時」という対決の時間を巡る、港雄一、山本昌平ら、イイ顔をした殺し屋たちの妄執と、現実も妄想も同列に並べる、天上から俗世を見つめるかのような視線があいまって、単なる出鱈目なイメージの羅列では描きえない、明快な法則性を持った不条理――すなわち悪夢が現出する。その“夢”の感触こそ、映画的体験に他ならない。
噴出祈願 15代の売春婦 ( 1970年/国映/74分 )
監督:足立正生 脚本:出口出(足立正生) 出演:佐々木天、斉藤博、マキコ・キム、青木幽児この意味不明なタイトルは、本来『十五歳の売春婦』と題される予定が、映倫に引っかかった結果である。『鎖陰』(1963)で知られていた足立正生は若松プロに参加するや直ぐに脚本家として頭角を現し、『堕胎』(1966)でピンク映画を初監督する。本作は、現在のところ足立の最後のピンク映画である。
セックスと妊娠に向き合う15歳の男女をリリカルな映像と、ひたすら読み上げられていく遺書で構成した、あまりにも物悲しい青春映画だ。『性遊戯』(1969)、『女学生ゲリラ』(1969)の陽性な青春群像とは対照的な全編を覆う暗さは、学生運動の退潮期とも重なるだけに、同時代の空気が濃密に充満しているように思えてならない。同時期の大島渚の『東京戦争戦後秘話』(1970)や『儀式』(1971)にも通じるが、映画がここまで死を模索したこの時代を、三島由紀夫自決も含めて、その時代を知らない世代によって検証しなければならない。それは『幽閉者 テロリスト』(2007)で再び映画戦線の前線に復帰した足立正生を現代の映画作家として検証する上でも必要な作業であろう。
主人公を演じるのは脚本家の故・斉藤博。助監督に荒井晴彦が参加、特別出演として平岡正明が顔を見せている。
ニュージャック&ベティ ( 1969年/国映/72分 )
監督・脚本:沖島勲 出演: 津崎公平、香取環、矢島宏志、加藤町子足立正生と同じく日大映画学科出身の沖島勲は、足立の誘いで若松プロの助監督となり、若松孝二を支えた。沖島の監督デビュー作となった本作は、間もなく結婚しようとする若い男女と、その両親や叔父夫婦が集まった山荘で起こる一夜の狂騒劇だ。最初こそブルジョワ家庭を思わせる上品な会話が展開するも、間もなくそれぞれが馬脚をあらわし、不条理な世界へと突入していく。やがて観客は少しずつ忍び寄る恐怖を感じ始めるだろう。スクリーンに穴がポッカリ開いてしまったかのように、ここで展開される物語が時空間に歪みが発生した世界の出来事に思えてしまう。終盤、童謡の「ぞうさん」が何故か唄い出され、そんな唄は存在しないのだと登場人物が叫んだ時、その恐怖は頂点に達する。我々の世界に限りなく近いが、微かに異なる世界が顔を見せているのではという疑念が確信に変わり始める。喜劇的でありながら恐怖を誘発してしまうデビュー作を撮った沖島勲は最新作『一万年、後….。』(2008)で、過去からやってきた人物が撮った映画を壁に映し出す。それが本作であることに気付いた時、40年の歳月はいとも簡単に飛び越えて迫ってくる。これは奇跡的に撮られてしまった恐怖喜劇だ。
ブルーフィルムの女 ( 1969年/国映/80分 )
監督:向井寛 脚本:宗豊 出演:橋本実紀、藤井貢、島竜二60年代のピンク映画は若松プロ関連の作品を僅かに観ることができる程度で、小林悟、小川欽也、西原儀一、新藤孝衛といった監督たちが量産した作品を振り返る機会はほとんどない。向井寛もそんな一人だが、本作を観るだけで如何に才気あふれる映画を作り出していたかが窺える。
大阪の有名な株師が二千万円の借金返済に困窮した末に妻の体を金貸しに提供することになる。金貸しは自分の息子は気違いだから相手をしてやってくれと頼み、妻は承諾するも帰り道に事故で命を落とす。株師はショックで半身が麻痺した末に自殺し、残された娘は金貸しへの復讐を誓う。銭ゲバと化した娘は売春しながらその様子を撮影し、男を脅迫して金を貯めるが……。
物語だけを追えば古典的な復讐譚になっているが、冒頭の007シリーズを髣髴とさせる洗練されたタイトルバックから既に瞠目させる。殊に土蔵に閉じ込められた坊主頭で赤い着物を纏った気違いの息子が蛇や鼠を持ち、それを株師の妻の体内に入れながら上に乗って絶叫するといった描写は、『犬神の悪霊』に匹敵する映画史に残る恐怖描写と言えよう。戦前、松竹の若旦那シリーズで知られた藤井貢が出演し、カラミを披露しているのも注目である。
濡れ牡丹 五悪人暴行篇 ( 1970年/国映/74分 )
監督:梅沢薫 脚本:日野洸 出演:港雄一、山本昌平、津崎公平、大和屋竺対立するふたつのギャング団による、札束と麻薬の詰まったトランクの奪い合い――そんなありふれたプロットの表面下に、錯綜した水脈が走っているかのようだ。傍若無人な殺し屋たちの隠し持った欲望が、悪夢のような混乱を招く物語は、大和屋竺(日野洸の変名でクレジットされる)の代表作の一つだといってもいい神話的強度を誇っている。大和屋自身が演じる唖の殺し屋クロは、自分をリンチにかけた一味への復讐のために奪ったトランクを、少女マリが持ち去ったのだと信じてしまう。そんなマリへの恋情に彼が取り憑かれはじめたのは、彼女が自分の舌を切った宿敵の情婦だと知ったときにちがいない。女が残した弦のないギターを掻き鳴らす彼の愛と憎しみ――しかし、クロだけではない。この物語のすべての男女は、手の届かない存在を憎んで愛するアンビヴァレンスに支配されているのだ。やがて宿敵への復讐を遂げ、マリへの疑いが晴れてしまうと、クロは暗闇のなかでいつまでもギターを奏でるしかない。きっとそれは、憎しみに取り憑かれた自分が、憎むことによってしか愛せないことを悟った絶望からだろう。
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◆加藤義一監督インタビュー
チケット
- 前売り券: 1,200円【劇場窓口、チケットぴあ [Pコード:460-542]】
- 当日料金:一般 1,400円/シニア・会員 1,000円
- リピーター割引あり(チケットの半券提示で一般料金より200円引き)
- 整理券制/各回定員入替制
2月28日(土)より3月20日(金)まで、
シアターイメージフォーラムにて開催!
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