「北のカナリアたち」/阪本順治監督

阪本 順治 (映画監督)
映画「北のカナリアたち」について

公式

2012年11月3日(土)より全国東映系ロードショー

阪本順治監督とは3.11をきっかけに知り合った。被災地の仮説住宅に物資を持っていき映画を上映するボランティア「映画屋とその仲間たち」で一緒になったことからだった。そのボランティアの泊まりの夜の席で阪本監督からは「北のカナリアたち」のことはうかがっていたこともあり一回目の披露試写に行った。結果は「北のカナリアたち」は堂々たる出来の素晴らしい映画だった。その出来に関して、初めて組む木村大作さんのことも含めてインタビューを是非したいと思って実現したインタビューである。地方の宣伝も含めて忙しい中を時間をとっていただいた阪本監督及び映画会社の方に感謝します。 (取材:わたなべりんたろう

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阪本順治監督2――俳優はどの方も好演でしたが、森山未來さんの熱演が際立っていました。現場での森山さんはいかがでしたでしょうか?

阪本 森山くんを凄い俳優と知ったのは劇団新感線の舞台を観に行ったときに「この俳優は誰なんだ?」と思うぐらいのインパクトがあってからです。彼はあまりTVに出ないから、出演している映画を観るたびに「ああ、この俳優だ」と認識はあった。彼が持っているものは口では言い表せないんだけど、今回、彼が演じた信人の役柄と重なるところがあるんです。彼は演技をしているかもしれないけど、彼の素の部分も合わせて出てくることを期待して起用しました。

――再会のシーンで、あそこまで森山さんは感情を表出させる演技をするじゃないですか? なかなか観ることができないものだし、観ている側にもあの熱量が伝わってくるんですよね。

阪本 ああいう体温が上がった演技というのは通常はテストで抑えてリハーサルで抑えて本番で出すものなんですが、彼はテスト1回目からあの体温の高さなんです。カメラが動いたり、セッテイングだったり間があいても次のテストでも同じです。全く変わらない。

――オーディションで選んだと聞きましたが子ども時代を演じる俳優たちの演出も見事でした。どのように演出したのでしょうか?

阪本 歌声だけでまず選んだんです。芝居のテストは全くしないで3100人から始まって合唱の先生などを含む音楽チームが送られてきた音源をずっと聴き続けて200人ぐらいにしてからぼくも参加して面接を始めました。願わくば、というか絶対に大人のキャスティングに似た子どもにしてくれよとあったんです。でも顔が似ているから選ぶのは却下で、まず歌声で選んだ。それは歌声はダメだけど顔が似ていて選んで歌声は後で吹き替えようというのはぼくもいやだったし、それは今作の方針としてもなかったんです。現場で生で歌声を録ると決めていたからです。それで選ばれた6人は演技の経験が全くなかったんです。ぼくと助監督で彼らに教室を開いて、「これがカチンコです」から始めて撮影の段取りを教えたんです。

――結果として似ていました。満島ひかりさんの子ども時代の方なんかかなり似ていましたね。

阪本 「この6人が歌声でベストです」となったときに「ああ、課題が一つクリアできた!」と思いました。大きな課題でしたから。なぜなら、今作は時代が交錯するので子ども時代と大人になってからの映像がダイレクトにつながるわけです。似てない人間を交錯させても違和感しか残らないわけだから、似ていてくれてホッとしました。

――撮影の木村大作さんと組んだのは初めてですがいかがでしたでしょうか? 被災地ボランティアの泊まりの夜などにも聞きましたが。

阪本 あのときは酔っぱらっていたから、どこまで話したか覚えていないけど(笑)、業界的には「絶対うまくいくわけがない」と言われていましたね(笑)。

『北のカナリアたち』場面2 『北のカナリアたち』場面3――でも以前から木村大作さんのほうから「一緒に組もう」と言われていたんですよね。

阪本 そんな丁寧な言い方ではないですけどね。「たまにはオレと仕事しろよ!」という言い方なんだけど(笑)。ぼくもカット割りとか含めて大作さんのイニシアティブになっちゃうのかなと思っていたらそんなことは全くなくて、コンビネーションもうまくいって随分助けられたし、それが映画にもあらわれているとも思います。業界的には撮影地の北海道から「うまくいってない」という噂を待ってたようだけど裏切りました(笑)。

――木村大作さんらしい寄りからとても引いた画がいくつもあり印象的でした。

阪本 やはりロケ場所に行くと大ロングの画のポジションを決めるわけです。目の前に壮大な風景があれば、まず大作さんがメインポジションのロングのポジションを決めるんです。それをカットの中のどこに入れるかを決めるのはぼくなんだけど、目の前におこなわれる人間のドラマが一番大事ながら、その背景にも言葉は必要だし、その背景の前だからこそ、その言葉が生きるように撮るんです。もちろん絵ハガキのように美しいとかそういうことでなくです。

――そういうことはなかったです。冒頭の子ども時代の森山さん演じる信人が教室を飛び出していくと学校を出た瞬間に画面がかなり引いています。このシーンで木村大作さんの撮影なんだなと強く感じました。

阪本 引いた画はあそこで始まるからね。ロケハンで礼文島と利尻島に行って、礼文島のほうがシーン数が多いんですが、そこで何を狙うかというと利尻富士というのがあの辺りの最も特徴を持った場所ですから、それと分校をどう一緒に画面におさめるかを考えるわけです。分校はセットで建てたんですが、利尻富士が最も壮大に見えるポジションを決めて分校のセットの位置を決めたんです。

――実際に礼文島で撮ることは始めから決めていたんですか? あそこまで過酷な環境で撮るのはかなりのことです。

阪本 今作のオファーを受けて、ぼくと大作さんと吉永さんで一緒に礼文島に行ったんです。最終的には舞台となる場所は、ぼくと大作さんが判断していいとなったんです。その前に東映の岡田社長が行っているんです。脚本の那須真知子さんと共にシナリオハンティングとして。

――普通は映画会社の社長はロケハンに行かないですね。凄い。

阪本 でも結局、村や町の協力もあるし東映創立60周年記念作品でもあるから。ぼくたちが行く1年前に行ってるんです。それを受けて那須さんが脚本を書いているんです。ぼくたちが行ってみて「ここはこの映画に向いていない」となれば他の場所を新たに探しましたが、行ってみれば圧倒的な風景で他にこれ以上の所はないなと。もっと言えば、映画屋はやりにくいところ厳しいところは突っ込んでいく性分だから(笑)。

――今日はありがとうございました。

阪本 こちらこそありがとうございました。

インタビュー:わたなべりんたろう 撮影:加茂桃子
10月26日TOKYO FMにて

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北のカナリアたち 2012年/日本/カラー/130分/
監督:阪本順治
原案:湊 かなえ 『往復書簡』(幻冬舎刊)~「二十年後の宿題」より~ 脚本:那須真知子
撮影:木村大作 音楽:川井郁子
出演:吉永小百合,柴田恭兵,仲村トオル,森山未來,満島ひかり,勝地涼,宮崎あおい,小池栄子,松田龍平,里見浩太朗
配給:東映 ©2012「北のカナリアたち」製作委員会
公式

2012年11月3日(土)より全国東映系ロードショー

往復書簡 (幻冬舎文庫)
往復書簡 (幻冬舎文庫)
北のカナリアたち(吉永小百合主演) [DVD]
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