大森 立嗣 (監督)
映画『ぼっちゃん』について
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2013 年3月16日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショー!
『ゲルマニウムの夜』や『まほろ駅前多田便利軒』などファンを多く持つ小説を、独自の世界観を貫かせて映像化してきた大森立嗣監督が、新作『ぼっちゃん』の題材に選んだのは秋葉原無差別殺傷事件。犯人がインターネット上に残した言葉に触発された監督は、想像力と生身の俳優の演技によって、これまで見たこともない異色でリアルな青春映画を作り上げた。屈折した主人公は美化などされずとことん無様に描かれるが、友達にならなければ覗けないその心はとても純真で、彼を引き止められなかったことが悔しくてたまらなくなる。そしてこれが「映画化する」ということなのだなとフィクションならではの力に圧倒された。「孤独」や「愛」という探り続けるテーマとともに「笑い」と「叫び」という本能的なものを求め、製作面からも原点に立ち返るような挑戦をした大森監督に、本作について伺った。(取材:深谷直子)
――『ぼっちゃん』は秋葉原無差別殺傷事件を題材にした作品ですが、内容はそこからは予想も付かないもので、とてもダークな笑いに満ちながら大森監督らしい重みのある人間ドラマになっていたと思います。まずこの事件を取り上げたきっかけから教えていただけますか?
大森 事件の1年後ぐらいに(犯人の)加藤智大の掲示板の書き込みを読んで、映画に向いているんじゃないかなと思ったんですよね。とてもこと細かに書かれていて、「時間です」という言葉を最後に残して歩行者天国に突っ込んでいって、それは脚本を書いていてもなかなか思い付くことではないから興味を持って。それがきっかけですね。
――事件自体のことではなく加藤智大の文章に惹き付けられたからだと。こういう事件に接すると、まず被害者的な目線から見てしまうところがあると思うのですが、この作品では不可解な犯人の心理をとても人間的に見せているのがすごいなあと思いました。
大森 僕も被害者の人たちに対して思うことはもちろんあるんですけど、あまりにも今世の中が被害者の立場に寄り過ぎているところがあると思っていて、そこに違和感を覚えるんですよね。加藤は確かに殺人を犯したけど、昨日までは僕たちと同じ風景を見て、同じ時代に生きた人じゃないですか。その人のことを「殺人を犯しました、じゃあ便宜的に法治国家で裁判をして隔離しましょう、死刑にしましょう」と、それだけでは何かが足りない気がして。一歩間違えば僕たちが加藤だったかもしれないし、世の中の何がおかしかったのか考えることも必要だとも思うし、僕たちが彼のことを考えることによって次の「加藤智大」が生まれないようにできるかもしれないと思うんです。
――そうですよね、確かに最近の事件を見ていると、自分もこういう事件を起こし得るかもしれない、ということを感じることは多いと思います。でもこの映画の主人公の梶の描かれ方はまた微妙な感じで、ちょっと馬鹿にして笑ってしまって、そう感じることに逆に痛みを覚えるような、本当に生々しいキャラクターだと思いました。コメディのように軽く描こうというのも最初から考えていたんですか?
大森 そうですね。ひとつには僕がコメディというか喜劇的なものにすごく興味があったんですよね。それと加藤智大の文章を読んでいったら結構笑えるわけですよ。加藤は多分意図的にそれをやっているんですけど、それと自分の喜劇的なものを撮りたいという気分がうまく重なってああいうものになっていったと思うんですよね。
――梶役の水澤紳吾さんがとてもハマっていましたが、水澤さん自身かなり考えて役を作っていらしたんでしょうか。
大森 もちろんこれは現実の事件が元になっているわけで、加藤という人のこともみんなが知ってしまうわけだし、水澤も僕も調べてやっているんだけど、僕たちが映画でできることというのは、役者という肉体を入れることによって裁判とかでは見えない何かに触れることができるんじゃないかということなんですね。加藤智大がやったことに対して裁判では法律家たちが言葉を費やして迫っていこうとするけれど、それは頭で考えていくところが大きくて、そこに肉体を持ち込むことによって違うほうに触れることができるんじゃないのかなっていうところがあったんですよね。だから水澤にもあんまり実際のイメージとかには引っ張られなくていいということは言っていました。「水澤がどう思うか、どういうふうにこの台詞を言いたくなるかっていうことのほうが大事だよ」と。
――それは役者さんみんなに対してそうですか?
大森 みんなに対して、いつもそういう感じですね。『まほろ駅前多田便利軒』(11)の瑛太や松田龍平がやるときでも同じです。俳優の演技に関しては、犯罪者であろうが普通の人間であろうが、まったく自分と違う人物になれるわけではないので、「お前が何を感じるかだよ、どういうふうに動きたい?」っていうふうに演出していくんですよ。
――そこでどう返してくるかというのが監督にとっても楽しみな部分ということですか?
大森 そう、それが見たいんですよね。
監督・脚本:大森立嗣
プロデューサー:村岡伸一郎,近藤貴彦 撮影:深谷敦彦 美術:黒川通利 録音:島津未来介 音楽:大友良英
編集:早野亮 衣装助言:伊賀大介 ヘアメイク:佐々木裕 音響効果:伊藤進一
アニメーション:蛹ナヲヤ 共同脚本:土屋豪護 助監督:加治屋彰人 出演:水澤紳吾,宇野祥平,淵上泰史,田村愛,鈴木晋介,遠藤雅,三浦景虎,日向丈,今泉惠美子,高橋真由美,小川朝子,
津和孝行,川畑和雄,石鍋正寿,中村文夫,塚田丈夫,松下貞治,堀杏子,町屋友康,伊藤陽子
声の出演:長尾卓磨,鈴木将一朗,小嶋喜生,久保麻里菜,岡部尚,南場尚,大川原直太,池浪玄八
製作・配給:アパッチ ©Apach Inc.
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