インタビュー
海燕ホテル・ブルー/大西 信満

大西 信満 (俳優)

映画「海燕ホテル・ブルー」について

公式

2012年3月24日(土)よりテアトル新宿ほか順次公開

ベテランでありながらインディペンデントで問題作を繰り出し続ける若松孝二監督の新作『海燕ホテル・ブルー』。ハードボイルド調の復讐劇はいつしか夢か現実かも判然としない情念の物語に変容し、その軽やかな自由さに今回も唸らされた。若手の常連俳優たちにとってこの作品のアングラな感触は手強かったようだが、監督の挑発に乗って生き生きと躍動し、映画本来の面白さを伝えてくれる。執拗で得体の知れない警官役に取り組み、新たな境地を掴んだ大西信満に、撮影を通じての新鮮な体験を語っていただいた。(取材:深谷直子

大西 信満 1975年8月22日、神奈川県生まれ。2003年、『赤目四十八瀧心中未遂』生島与一役にて映画デビュー。2003年度毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞、2003年度日本映画批評家大賞・新人賞受賞。その他の映画出演作は、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008)、『ランニング・オン・エンプティ』(2010)、『キャタピラー』(2010)、『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(2011)。待機作として『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(2012)、『ヴァージン』(2012)、『ビターコーヒーライフ』(2012)など。

大西信満1――若松孝二監督がこのところとても精力的に活動していて、今年はこの『海燕ホテル・ブルー』を皮切りに3本が公開されますね。大西さんや他の若松組常連の役者さんたちも連続して出演していますが、この作品のお話はいつどのようにいただいたんですか?

大西 若松監督が前々から、酒の席などですごくアバウトに「いつか船戸与一さんの(小説の)『海燕ホテル・ブルー』をやりたい」というお話をされていたんです。大分前ですよ、『キャタピラー』(10)のときとか、下手したらもっと前、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)が終わったぐらいの頃から。で、何となく「準備しとけよ」的な話はしていたんですけど、具体的になってきたのはクランクインの少し前ですね。

――クランクインは去年ですよね。

大西 『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』(12)の撮影のすぐ後です。公開順としては『海燕』のほうが先になったんですけど、撮り順としては『三島』のほうを先に撮っていて、何せ『三島』は準備から撮影まで内容も題材も含めてとにかく大変な現場だったので、みんな次のことを考える余裕なんてなく全力を注いでいて。で、クランクアップしたときに監督たちと食事をしていたら「次すぐ『海燕』やるから」と言われて、みんなは「ホントですか?」なんて言いながらもどこかで「またまたあ」ぐらいな気持ちでいたんですけど、本当にやってしまったという感じでした。

――『海燕』のお話を最初に聞いたときは配役などは決まっていなかったんですよね?

大西 物語の軸となる藤堂役に関しては、ある時期から地曳(豪)くんでいくと決まっていました。他は白紙でしたが、監督から「男三人が一人の女を巡って壮絶な殺し合いをする話にしたい」と聞いていたので、自分としては「じゃあ多少原作とは違う設定にするんだろうな」ぐらいの気持ちでいました。で、直前に脚本を渡されたら「あれ、原作にないじゃん、この役」みたいな。

――私は映画を観た後で原作を読んだんですけど、大胆に変えていたんだなあと驚きましたね。物語の雰囲気も違いますし、半分ぐらい削られている感じで。

海燕ホテル・ブルー1大西 脚本の稿を重ねるごとにどんどんイメージが湧いて変わっていったようですね。原作にない自分の役は、あの原作を若松監督の映画として再構築する中で生み出された役なのだと思います。

――大西さんが演じた警官は本当に不思議なキャラクターでした。

大西 リアルな存在、現実世界の住人である地曳くんや廣末(哲万)くん、(井浦)新さんたちが演じた役との対比で、どこかリアリズムとファンタジーの境界線にいる人物として演ろうと思って。生々しくもあり、もしかしたら主人公の強迫観念が生んだ幻かもしれない。同じように境界線上にいる片山(瞳)さんが演じるキャラクターとの色使いの違いにも注意しながら、映画が求める自分の立ち位置を探っていき、どこか足元の覚束ない、浮遊しているような、中身が空洞のような不安定な存在のキャラクターにしようと思いました。今まで若松監督の下で演じてきた「強い芯」を持った役なら役作りの材料がたくさんあったけど、この役に関してはあえて中身を空洞化した分、寄る辺がなくてずっと緊張していた気がします。

――今回は台本自体も撮影の途中でどんどん変わっていくようなところがあったそうですね。

大西 変わりましたね。室内での会話のシーンだと思っていたら途中で「ここから先は砂漠だから」って移動したり、台本上そんなこと書いてないのに「ここは全裸で走るんだ!」と急に言われて地曳くんが泡食っていたり(笑)。

――(笑)。監督は「これは遊びの映画だ」とよく言われていますね。

大西 やはり『連合赤軍』、『キャタピラー』、『三島』と、重たい史実ものを3本続けざまにやって、どこか若松監督の中でストレスを吐き出したいという気持ちはあったと思います。制約なくもっと自由なもの、60年代・70年代に撮ってきたようなものを、原点回帰じゃないけれどもやりたいんだ、っていうことは話していましたね。

――大西さんはご自分の役に緊張したとおっしゃっていましたが、演っていて面白い部分もあったのではないですか?

大西信満2大西 そうですね、今まで演った中でいちばん自由度が高いものでしたから。制約もないし、自分の中でもこうあらねばと言うのが全くなく、なさ過ぎて大変な部分もありましたが。バックグラウンドと言うか、役の芯を持っていれば現場で刻々といろんなことが変わっていっても臨機応変に対応できるんだろうけど、役の芯を持たされない中で現実と非現実のはざまでフラフラ漂うというのは新しい経験で。若松監督はあんまり事細かにあれこれ指示する人ではないから、「これでいいのか?」っていう中で演っていくしかない部分があるし、正解を探さずに、理屈じゃなくそこにいてしまう面の皮の厚さを学んだ気がします。

――撮影の辻智彦さんのブログ(「目隠しされた馬」)にこの映画の撮影日記が何回かにわたって掲載されていて、大西さんが監督の「お前はアメリカなんだよ!」という漠然とした指示を瞬時に理解して見事なアドリブをしたのに驚いたということが書かれていました。

大西 いや、そんな見事なものでは全然なくて。若松監督はときに抽象的なことを急に言ったりするんですが、監督の言うアメリカというのは分かりやすく言えば「権力の象徴」という意味で、権力を笠に意に沿わないものを理不尽に攻撃することへの怒りが根底にあるのは今までの関わりの中で知っていて。だとしたら、そこの部分を強調した、監督が大嫌いなキャラクターにしていこうと思ったんです。死に体の相手にさらに銃弾を撃ち込んだり、ネチネチと粘着質の気持ち悪い権力者が、最後は因果応報、自業自得で、情けないカッコ悪い死に方とかしたら痛快だろうな、とか思ったりして。

――あえて原作にない役を作り上げるというのは、そこに深い意味があるはずですよね。

大西 岡部(尚)くんが着ていたゲバラのTシャツだとか、細かなところで若松監督のいろんな意図がさりげなく入っていたりして、一見すると軽い感じの映画なんだけど、実は若松監督の強い思いが詰まった映画なんじゃないかと思います。

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海燕ホテル・ブルー
監督:若松孝二
プロデューサー:尾崎宗子 企画:若松孝二 原作:船戸与一『海燕ホテル・ブルー』 脚本:黒沢久子、若松孝二
撮影:辻智彦、満若勇咲 音楽:ジム・オルーク 題字:船戸与一
出演:片山瞳,地曵豪,井浦新(ARATA),大西信満,廣末哲万,ウダタカキ,岡部尚,渋川清彦,中沢青六,水上竜士,
山岡一,東加奈子,真樹めぐみ
配給:若松プロダクション ©若松プロダクション 公式

2012年3月24日(土)よりテアトル新宿ほか順次公開

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